漫画界の巨匠、鳥山明の作画の秘密はどこにあるのでしょうか。
この記事では鳥山明の作画の魅力について探っていきたいと思います。
鳥山が育った家庭は貧しく、幼少期の鳥山自身は漫画をかくことを唯一の楽しみとしていたそうです。
他の漫画家と同様に手塚治虫やウォルトディズニーを尊敬しており、 一番影響を受けたのはディズニーアニメだそうで、デフォルメしたディズニー作品を毎日描いていたそうです。
また、小学校高学年以降は漫画よりもドラマや映画に興味が移り、漫画自体には 触れる機会は少なくなっていったといいます。
鳥山自身も漫画においては絵の巧さも大事ですが、それよりもストーリー作りの重要性を自身の著書で記述しています。
欲しいものをずっと描いていた
鳥山明は欲しいものがあるとそのモノ自体を描き続けていたそうです。
例えばバイクが欲しければ、バイクをずっと描いていたそうです。
これは漫画家としてデビューした後も続いていたそうです。
また、父親自身が元バイクレーサーであったり、モデルガンやプラモデル作りを趣味としており、(プラモデル作りではタミヤのコンテストで金賞を受賞している) メカ愛が非常に強く、構造的にも把握しているので、魅力的に描く力を持っているのだなと推測できます。
メカへの興味や造詣が深いため、作品の中でも精巧で魅力溢れるマシンが数多く登場します。
機械の仕組み自体はそれほど詳しくはないとの事ですが、乗車方法やエンジンの付き方など、よく考えられて描かれているので破綻なく魅力的に描かれています。
デフォルメの天才
鳥山明の魅力はなんといってもデフォルメ表現の秀逸さでしょう。
デフォルメ表現はマンガ表現において鳥山明の右に出るものはいないといっていいくらいズバ抜けています。
有名な逸話としては「ドラゴンクエスト」のスライムのイラスト表現でゲームデザイナーの堀井雄二の書いた依頼されたラフ絵 (液状のドロドロしたスライムイメージ)とは全く別の表現でスライムを提示し、後の国民的ともいえる「スライム」のイメージを作り上げたエピソードはあまりにも有名です。
また、マシンや機械の表現では工業製品が持つ無機的なイメージではなく、少年マンガ的な、柔らかく丸っぽい絶妙なイメージを作り上げています。
この絶妙なデフォルメ加減がデフォルメの天才といわれる所以でしょう。
デフォルメはやりすぎると幼児向けになってしまったり、ただのに単純な作画になってしまう恐れがありますが、 鳥山明が描くデフォルメ絵は少年向けマンガとして絶妙なバランスで描かれています。
これは同時代に活躍した対象をクールかつ写実的に描く大友克洋とは対照的な作風といえるかもしれません。(「AKIRA」は1982年連載開始、「ドラゴンボール」は1984年連載開始)
デフォルメ表現は特に「Drスランプ」や「ドラゴンボール」の初期や「ドラゴンクエスト」シリーズで見ることが出来ます。
「ドラゴンボール」初期の画風をフェイバリットに挙げるファンも多いのは頷けます。
グラフィックデザイン的なバランス力
マンガにおける鳥山明の作画は基本的にトーンを使用しません。
そのため、基本的に中間色がない、コントラストの強い黒と白で表現されています。
そして一コマ一コマをよく見ると 非常にバランスが良い黒と白で構成されているのが分かります。
これはどちらかというと、優れたグラフィックデザインの配色のような構成でできており、読者に分かり易くかつ気持ちの良い感情で読ませることを実現しています。
ドラゴンボールでは擬音以外は基本的に枠線の中に収めており、一コマ一コマがまるでポスターのように機能しているようにも見えてきます。
どのコマを選んで、Tシャツやポストカードにしても画になるパワーを持っているのです。
圧倒的に見やすい構図
「ドラゴンボール」などを見るとバトルシーンなどでキャラクター同士が複雑な体勢で戦うシーンがあるのですが、 どれも「見やすい」ことに気づきます。
これは漫画を読むときの視線を忠実に考えられている証拠です。
日本の漫画は基本的に右から左、上から下へ目線が移動しますが、バトルシーンなどでは忠実にこの読者の目の動きに合わせて、キャラクターやカメラを動かしています。
漫画作品として、ストーリーだけではなく絵にも分かり易さを追求しているのです。また、スピード線も多用されているのですがスピード感を生むだけではなく、読者の目線の動きをスムーズにするためにも効果的な役割を果たしています。
ワクワクするシーンを切り取る名人
漫画の扉絵やゲーム作品のイラスト表現ではワクワクするシーンを切り取る名人です。
「クロノトリガー」などのイラストを見るといつでも冒険心をくすぐられ、ワクワクすることが出来ます。
バトルシーンや旅のワンシーンを切り取るセンスは本当に秀逸です。
一枚の絵を見るだけで容易に状況を想像させることが出来るのは、情報を整理する能力が高いからです。 構図、キャラクター、デッサン力、伝達能力、このすべてが優れているので一枚の絵でワクワクすることが出来るのです。
魅力的なキャラクターづくりと斬新な設定
先述したメカのデザイン以外にもキャラクターづくりも非常に魅力的です。
特に「ドラゴンボール」におけるピッコロ大魔王やフリーザ、セルなどの敵キャラのデザインはオリジナリティがありますし、 よく観察するとやはり造形物として、配色や筋肉の付き方など、非常にバランスが良いのです。
また、『西遊記』や『南総里見八犬伝』を題材にした「ドラゴンボール」ですが、 各キャラクター名や「やかめはめ波」など技のネーミングセンスや 「スカウター」や「スーパーサイヤ人」「ボールを集めると願いが叶う」などの設定も秀逸です。
普段何気なく楽しんでいる鳥山明の作品ですが、作画をよく観察すると様々な発見があり、 よく考えられて、制作されていることが分かります。
一コマ一コマをよく観察して分析する楽しみ方をしてみては如何でしょうか。
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