ソール・ライターという写真家をご存知でしょうか。
1950年代よりニューヨークを拠点に活動し、現在では伝説的な写真家として再評価されています。
絵画のような構図や色彩感覚、ストリートに対する独特な視点が特徴的で、魅力的な作品を多く残しました。
「見るものすべてが写真になる」と語るソール・ライターの作品をご紹介します。
元々、画家を志していたこともあり色彩と構図が実に絵画的です。また、なにげない街のワンシーンの切りとり方が独特であり、ニューヨークという巨大な街をクールに捉えています。
ものの捉え方、被写体の選び方などは、大胆で独特なものがあり他の写真家とは違った資質を持っていました。
写真家としては非常に杞憂な存在であったと言えるでしょう。
「雨粒につつまれた窓の方が、私にとっては有名人の写真より面白い」と語っているように雨の日の作品が多くあるのも特徴です。
雨が持つ有機的な質感や都会の暗鬱としたイメージは、物語のワンシーンを見ているような気分になります。
独自の視点と絵画的な様式を持つ作品群は、現在でも十分に評価されるのも頷けます。
生い立ちと「世界デビュー」まで
1923年、ペンシルバニア州ピッツバーグ生まれ。
母親にカメラを買ってもらい、1935年頃から写真を撮り始めます。
画家を志し、移住したニューヨークで抽象表現主義の画家リチャード・プセット=ダートと出会い、写真表現の技術を学びます。
個展を開催してもほぼ自分の作品が売れない状況で、徐々に商業写真にシフトしていきます。
その後、絵画で培われた色彩感覚・エレガントな作風は雑誌関係者を中心に次第に注目されはじめます。
アート・ディレクターのヘンリー・ウルフが目をつけ、ライターは「エル」「ヴォーグ」「ノヴァ」などのファッション雑誌の世界で活躍します。
しかし1981年、スタジオは閉鎖されます。
時代の移り変わりと共に徐々に仕事がなくなっていく現実がありました。
商業写真とは決別し、自分のために写真を撮り始める隠遁生活を始めます。
その後、ソール・ライターが新たに注目される機会が2度訪れます。
はじめは1994年頃、ライターの作品を扱っていたニューヨークの名門写真ギャラリー、ハワード・グリーンバーグ・ギャラリーで、1940年代後半から1950年代に撮影されたカラー・プリントが関係者に初披露され、1996年に個展が開催されます。
この奇跡的な展覧会は好評に終わりますが、展覧会が終わるとライターはまた忘れ去られる存在になります。
そして、2006年。
ドイツの出版社シュタイデルの創設者ゲルハルト・シュタイデが、再び開催されたライターの写真展に立ち寄ったときに、写真集『Early Color』の出版を決めます。
この写真集をきっかけに評価熱が高まり、ライターに仕事の依頼が次々に舞い込んでくることになります。
83歳にしての世界デビューでした。