無印良品から見るデザインとブランディング施策

デザイナーの田中光一とコピーライター小池一子の提案により、西友のプライベートブランド製品「SEIYU BRAND」が考案され無印良品の原型が出来ます。その後、田中一光の提案によりノーブランドグッズ(no brand goods)を和訳した「無印良品」をブランド名とし、西友百貨店やファミリーマートで無印良品製品の販売が開始されます。

無印良品「消費社会へのアンチテーゼ」としてのコンセプトで生まれた無印良品は、元々はグラフィックデザイナーとコピーライターが産み落とした企画だったのです。

現在でも「シンプル」「ノーデザイン」とされるデザインは強い哲学性を感じさせ、各種宣伝に使われるコピーライティングや広告表現も、シンプルでありながらモダンであり、洗練された現代のライフスタイル案を訴求しています。良品計画が作り出すデザインとブランディング施策を見ていきましょう。

モノの本質に気付かせるため、消費社会のアンチテーゼとして無印良品は誕生した
生活者にモノの本質を気付かせるため、当時行き過ぎた消費社会のアンチテーゼとして無印良品は誕生した

デザイナーの名前を公表しない

無印製品の特長として、製品デザインに関わったデザイナーを基本的には公表しないという特徴があります。実際に無印良品のホームページや店舗ではデザイナーの紹介などは一切行っていません。モノの本質を受け入れてほしいという思いから、デザイナーの名前を打ち出してのブランディング施策は行わないのです。実際、IDEEなどで活躍する人気デザイナー「ジャスパー・モリソン」や三菱銀行やJR東海の制服デザインを手掛けた「山本耀司」を起用していますが、公には公表していません。

日本で生まれた企業であるから、日本古来の生活の美意識を大切にし、「普遍」と「必然」を<集めること>をコンセプトとしてる無印良品の製品は誰かの著作ではないのです。現在の製品デザイン群を見てもわかる通り、田中一光が提唱した無印良品の”簡素の美”は確実に受け継がれています。

深沢直人氏デザインの壁掛け式CDプレーヤーと山本耀司氏デザインの「洗い晒しシャツ」
日本古来の生活の美意識を大切にし、「普遍」と「必然」を集めることをコンセプトとしてる無印良品の製品群

徹底した開発プロセス

徹底して「無印らしさ」を大切にしていて、ブランドイメージを保っています。良品計画は売り上げで言えば、「しまむら」や「ユニクロ」等と比較すると遠く及びません。ですが、80年代の消費社会におけるアンチテーゼとして生まれた無印良品はモノの本質を第一に考えているため、時代に左右されない普遍的なプロダクトを開発しています。

無印良品

無印良品は「らしさ」を維持するために、外部デザイナーで構成された組織「アドバイザリーボード」が存在します。グラフィックデザイナーの原研哉氏、プロダクトデザイナーの深澤直人氏などを中心にした4名体制で月に一回デザインミーティングを実施しています。このミーティングでは、具体的な意思決定を行う場ではなく、暮らしの中で感じたことや世の中の風潮、問題意識を共有し、それを製品に反映し目指すべき方向性を決めていこうといった場なのです。ミーティングで集まった意見は、実際に経営レベルで中長期事業計画に反映されていきます。

無印良品家電雑貨などのプロダクトは具体的な製品開発の段階になると、3回に及ぶ「サンプル検討会」が実施されます。1回目は商品構成や考え方の確認、2回目は発砲スチロールなどで具体的な方向性を打ち出し、3回目にモックアップを作成し実際に図面に落とし込む想定までもっていきます。これとは別に「アドバイザリーボード」のメンバーである深澤直人氏によるチェックや指示出し、コンセプトづくりが入ります。

無印良品
深沢直人氏監修の元、開発された家電プロダクト群

また、デザインリリースの判断を外部アドバイザーを招き、年2回の判定会を行っています。そこで「らしさ」が問われ、製品の発売の可否が判断されます。このような徹底した開発プロセスを経て、店頭に無印ブランドとして認められた製品が並ぶのです。

左:ランタン 右:加湿器
左:ランタン 右:加湿器
無印良品
左:化粧水 右:ボールペン
無印良品
原研哉氏が手掛けた広告

世界的にも無印良品のデザインは評価が高く、ニューヨークの近代美術館では製品が販売されており、ドイツの「iFデザイン賞」でも史上初めて五つの金賞を受賞しました。

デザインにおいて徹底した「普遍」と「必然」を機能させる意識と、古来からの日本人が持ち合わせている美意識、安易に消費社会に迎合しないものづくりのスタンスが無印ブランドを支えているのではないのでしょうか。

無印良品
東京・有楽町店店内