日本における管理社会や抑圧された大衆の心理状態を痛切に描いた作家、石田徹也の作品を鑑賞していきたいと思います。
アクリルでキャンバスに高い画力で描き切っている強烈な作品を一度でも見た方は多いのではないでしょうか。
経歴と生涯
石田徹也は1973年、男四人兄弟の末っ子として静岡県県焼津市に生まれました。
幼少のころからよく絵を描いて遊んでいたそうです。
小学校5年のころにはクラスの代表として学級旗を描いたり、教科書やノート、テスト裏にもひたすら絵を描いていたそうです。
また11歳の時には、公募「人権マンガ」コンクールで最優秀賞を受賞し、その才能の片鱗を見せています。
中学の卒業文集では担任に「あなたの将来は絵で賞をもらって有名になっている」と書かれたそうです。
その後、美大の進学予備校に通い武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科に入学します。
グラフィックアート『ひとつぼ展』でグランプリを受賞したり、毎日広告デザイン賞で優秀賞を受賞したりと、その才能をより開花させていきます。
就職活動では一社のみデザイン会社に行きましたが不採用になり、その後は
画家として活動することを決めます。
その後も画家として活動し数々の賞も受賞をしますが、収入は安定はせず常にバイトをしながら活動していたそうです。
惜しくも2005年5月に31歳で踏切事故で死去してしまいます。
2001年の香港で開催されオークションでは約1200万円で落札されたり、 2012年5月に開催されたユナイテッドアジアンオークションでは「囚人」という作品が日本円にして約9,230万円で落札されたりと、現在も世界的な評価を受けています。
2019年にスペイン・マドリードの国立美術館で開催された個展には入場者が31万人を超えました。
作品の特徴
抑圧された日本の管理社会での閉塞感や生きづらさ、歪んだ教育システムの中にある絶望感や孤独を表現しています。
作品には青年が描かれることが多く、その表情からは夢や希望はなく、孤独や不安の色がうかがえます。(ちなみに登場しているモデルは自分自身ではないと否定しています。)
日本社会において自分のアイデンティティが崩落していくような闇を超現実的に高い画力で表現している作家です。
作品には日常風景で見られるスーパーの袋、洗面台、雑誌や新聞などが描かれ、物質社会の空虚さも表しているといえます。
作品を見るとこういった消費されるような物質は細かく描きこまれているのが分かります。リアルに描写することで物質社会における空虚性が一層際立って表現されています。
初期~中期作品は具体的なメッセージがあり解釈が統一されるような作品が多いのですが、後期になるとメッセージ性は抑えられ、やや抽象的な作風に変わります。石田自身は「結局絵って見る人によるんです。どんな風にでも。その人の生きてきた時間とか、その時の感情とかで、絵は絵じゃなくなるんですよ。僕の絵を見て、笑ってる、怒ってる、悲しがっている…。そういう人が同時にいるのが理想。」と語っており、鑑賞者により自由な解釈を持たせようとしました。
しかし、一貫して日本社会における不安や孤独、絶望などを10年という画家人生の生涯を通して表現した作家といえるでしょう。