マーカス・キースは1960年代後半から1970年代半ばまで活躍したビジュアルアーティストで、優れたアルバムジャケットのデザインを数多く作成しました。
この時代に活躍したヒプノシスやロジャー・ディーンと肩を並べるジャケットデザイナーの一人で、シュールな作風で知られています。

イギリス出身のマーカス・キーフは元々は写真家ですが、ジャケットデザインにおいては独自の世界観を構築するために赤外線カラーフィルムを使用したり、ネガポジを反転せず使用したり、あえて粒子を潰して表現するなど、制作姿勢においてはデザイナーに近いスタイルで制作しています。
本業は写真家なため、写真一枚で世界観を作り上げるのですが、神秘的なイメージやマグリットのようなシュルレアリスム的な世界を構築するヒプノシスなどに比べ、その作風はシュールでありながら、退廃的・荒廃的なイメージを作りだし、どことなく耽美な印象をも感じさせるものが多いです。
マネキンの首や番傘をさした人物、不気味なピエロなど作品内で奇妙なモチーフも多く使われ、構図も絵画を感じさせるものも多く、印象的な世界が構築されています。
また、色彩は彩度が低いものが多く、写真のネガポジを反転せず使用したりするので独特の色彩感覚を感じることが出来ます。
特に印象的な作品がブラック・サバスのデビューアルバムやアフィニティのアルバムジャケットです。
キーフの作品はやはり写真の質感に特徴があり、ブラック・サバスのジャケットでは赤外線フィルムを使った写真を後から着色し、退廃的で不気味な世界を作り上げています。
西洋絵画的でもあり、退廃の中に美しさを感じさせるものが多くあり、非常に美意識が高い作家のようにも感じます。
1978年にはケイト・ブッシュの「嵐が丘」のビデオ・クリップを制作したことをきっかけに、映像ディレクターに転向します。
キッスや、ポール・マッカートニー、ブロンディなどのミュージックビデオを制作し、アルバムジャケットは次第に手掛けなくなっていきました。
ヴァーティゴやネオンといった多少マニアックなレーベルのアーティストを数多く手掛けていたため、現在では復刻版の紙ジャケットなどでキーフの作品を見ることが出来ます。