圧倒的な画力、魅力的なメカデザイン、唯一無二の世界観。
大友克洋はそれまでにはない漫画を作り出し、80年代以降、世界中のクリエイターに多大な影響を与えました。国内外でも特に評価が高い「童夢」「AKIRA」を中心に大友克洋の作画の魅力を分析します。
「ショートピース」が与えた影響
1954年生まれで宮城県出身。
大友は幼少のころより、他の漫画家と同様に手塚治虫の漫画やアニメなどを見て育ちます。
中学になると漫画より映画を多く見ていたそうで、大友漫画の特徴である映画のようなコマ割りやストーリー展開など、この頃に観た映画体験が後の大友漫画の原点といってよいかもしれません。
漫画雑誌「COM」や「りぼん」などに投稿を続け、漫画アクションにて『銃声』でプロ漫画家としてデビュー。
1979年に自選作品集である初の単行本「ショートピース」を刊行します。
現在「AKIRA」などで知られているサイバーパンク/SF調の作風ではなく初期の作品はロックやジャズなどの70年代の文化をベースとした、日常の風景を淡々と描いているものが多くありました。
これらも当時の「アメリカンニューシネマ」といわれる映画のムーブメントの影響からくるものでした。
「ショートピース」は当時の漫画界に大きな影響を与えます。
それまで漫画というと手塚治虫が生み出したデフォルメされたいわゆる「マンガ絵」が主流でした。
しかし、大友の漫画は、人物も建物も高いデッサン力で写実的に描かかれ、写真のように切り取られた一枚画のコマの連続で物語が進んで行くのです。
このような手法はいままでにはない漫画表現でした。
この衝撃は多くのフォロワーを生み出し、現在の日本漫画の作画のベースとなりました。
大友以前・以降
漫画業界での作画手法が転換され、多くの漫画家はこの路線に進むようになります。手法の転換は「大友以前・以降」とも言われ、要求される画力が底上げされたため、大友以降の漫画家は大変な思いをさせられると言われました。
1980年「童夢」を連載。現在の大友克洋をイメージされるSF作品がこの作品から生み出されます。
「童夢」は団地を舞台に圧倒的な画力をもって、複雑なパースや構図を取り込み、唯一無二の世界観を構築しています。
特徴である、ペンタッチに頼らない均一な線で描かくことによって緻密な世界観が生み出されています。強弱をつけない均一なタッチで描くことで、団地が持つ無機質な存在感を前面に押し出すことに成功しています。
また、アングルや構図を工夫することによって団地が新しい、別の世界のように表現されています。
大友克洋は建築物や機械類などを描く場合、対象の工法や内部構造を理解して描くとインタビューで語っています。
描く対象の構造を理解しているからこそ、複雑な建物やメカの作画が可能となっているのです。
現在バトル漫画などで多く見られる、壁が丸くへこんだり、襲撃波のような超能力は大友がこの作品で初めて描いたようで、当時話題になりました。
「AKIRA」の世界的評価
1982年に「AKIRA」の連載が始まり、世界的な評価を受けます。
「AKIRA」はのちにアニメーションとして映画化されますが、漫画とアニメ共に評価が高い良い例です。
昨今COOL JAPANといわれる日本のアニメ―ション産業(ジャパニメーション)を担った代表的な作品でもあります。
「童夢」と比較するとSF要素が強まり、緻密な書き込みと映画的な手法が一層強まります。読者は、大友が紡ぐ高度な画力と今までに見たことがないような映画的演出に圧倒されます。
大友克洋は単に画力が高いだけではなく、デザインや演出のセンスが非常によく、主人公・金田のバイクをはじめとするメカデザイン、殺伐的な街の背景やネオン、スピード線を多用した戦闘シーンなど、斬新な表現を多く生み出しています。
また、疾走する車のヘッドライトの残像や、地下道の人物の影の演出など、細かい演出にも所々センスを感じます。
メカデザインの作画で有名どころといえば鳥山明が挙げられます。
デフォルメ表現を得意とする鳥山明と比較すると、対象を写実的にリアルに捉え、映画のようにメカの動きを演出しています。
「ぐァつ」「ぐァつ」や「山形ァ」などの印象的な擬音やセリフなども「AKIRA」の魅力で、特徴的な擬音をフキダシで表現しているのも特徴です。
「AKIRA」は特にスケールが大きい作品なので街が破壊されるシーンが多くありますが、緻密な書き込みは建物の倒壊シーンで遺憾なく発揮されます。
大友の描写は細かすぎて線が潰れてしまうため、コミック版では大判サイズが採用されています。
「AKIRA」は漫画だけではなく、アニメーション映画でも海外で人気を得ています。アニメ版「AKIRA」はCOOL JAPANの先駆け、といってよいのではないでしょうか。
制作は70mmプリントで使用セル画数約15万枚。
世界8か国で劇場公開され、破格の10億円をかけて大友克洋自らが監督と脚本を手掛けています。漫画版と比べストーリーはコンパクトになっていますが、大友克洋自身が脚本を手掛けていますのでうまくまとまっています。
世界中のクリエイターに影響を与え続けている
大友作品は漫画家のみならず、様々なジャンルのクリエイターに影響を与えていますので、デザイン・アート従事者にも非常にインスピレーションを与えてくれるのではないかと思います。
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